「ソーシャルマネジメントカレッジ」の体験入学レポート
みんなの夢AWARD5にて「夢AWARD」を受賞した、教来石小織さんによる「ソーシャルマネジメントカレッジ」の体験入学レポートです。
11月27日、今年の夏に開校した「ソーシャルマネジメントカレッジ」の体験入学に行ってきました。
ソーシャルマネジメントカレッジ(以下、SMC)とは、公益財団法人みんなの夢をかなえる会と株式会社PrimaPinguinoが共同で行う、「ソーシャルインパクトを起こす起業家を育成する教育機関」です。
「在学期間内での起業が必須」、「優れたビジネスモデルには最大2000万円の資金支援を実施」、「大企業や行政、政治家とのコネクションを作れる」など、夢の実現に大きく近づける学校になっています。
「ロマン(挑戦や社会課題の解決)とソロバン(経済的自立・経済活性化)の両立は目指すべき姿です」と書かれているSMCの説明を読み、ロマンはあれどソロバンができていない自分に胸を痛めつつ、その日の会場となっている株式会社クリックネットさんのドアを叩きました。
アットホームな会場の中に、みんなの夢をかなえる会のスタッフの男性が一人。「前回みなさん30分前には来てたのに、今日は10分前になっても誰も来てないから、僕、日にち間違ってたかなと思って」と不安そうにしている姿が可愛かったのですが、その後すぐに続々と生徒さんたちがやってきました。
SMCでは「若者」・「女性」・「地方での挑戦者」を対象にしているとのこと。生徒さんの顔ぶれは、オシャレな大学院生、管理栄養士の女性、銚子電鉄の男性、大手広告代理店社員、広告デザイン会社経営者、NGOで働く方、森林を作る方など、年齢も肩書きも様々です。共通点は実現したい夢があるということだけ。
私が体験したのは、SMCの特別講座である「ソーシャルマネジメント・アントレプレナー養成講座」。今回は0期として無償でプログラムが提供されています。
講師は株式会社PrimaPinguino代表の藤岡慎二さん。慶応義塾大学制作・メディア研究科終了後、2006年に教育コンサルティング会社を設立。キャリア教育事業、推薦・AO入試事業を中心に事業を拡大していきました。株式会社ベネッセコーポレーションなど大手教育関連企業とも協同しています。
2009年には島根県隠岐海士町で、統廃合寸前の高校を魅力化するという前人未到のプロジェクトに参画。2017年からは石川県の大学教員に就任予定とのこと。
「みんなの夢アワード5」のファイナリストでもあり、現在は一般社団法人ソーシャルビジネス・ドリームパートナーズから出資を受けて、(※1)ユヌス・ソーシャル・ビジネスの7原則に基づいて事業展開を拡大されています。まさに教育とソーシャルビジネスと地方創生のプロフェッショナルであり、SMCの講師に最も相応しい方です。
講義の冒頭、「スライド120ページになりました(笑)」と笑う藤岡さん。藤岡さん一人で13時から18時まで長丁場の授業です。
藤岡さんとは「みんなの夢アワード5」の合宿でご一緒したり、人生相談に乗っていただいたりしたことがあります。私の中の藤岡さんの印象は、ご自身の体重をネタにするなど「面白くて面倒見がいいお兄さん」。合宿中も必死に電話をして保育園を探すなど、良きお父さんという印象も。そしてこの日、「藤岡さんて、めちゃめちゃ頭のいい凄い人だったんだ」という印象も加わりました。
講義中、確実に寝る自信があったので、目が覚めるガムなどを購入していったのですが、残念ながら授業が面白すぎて眠くなる暇がありませんでした。
その日の講義のテーマは、「問題発見・解決能力(問題を構造化するスキル)を身につける」。
「愚痴と問題提起はどう違うのか」の事例として、沖縄の全国一厳しい雇用情勢のことを聞きました。
沖縄は、全国一完全失業率と離職率が高く、全国一有効求人倍率が低い県。その背景には、雇用の場や企業の求人が不足していること、労働条件や職業能力のミスマッチ、若年者の就業意識の低さがあるそうです。対策として補助金が出たり、アイドルが「働こうよ」とCMで言ったりしても解決にはならず。根本から解決するためには、沖縄の貧困問題と、真の課題は何かを考える必要がありました。
「効率が悪い。低賃金で人を採用して生産性を上げよう」、「淡々と仕事をしてくれる人材が欲しい」という企業の愚痴や、「あんな給料でやってられるか」「とりあえず生活のために働こう」などの若者の愚痴を構造化していくと、「沖縄の貧困の悪循環を断ち切るには、現状を変えることへのアレルギーを克服し変化を受け入れる人を育てていく必要がある」ということが見えてきました。
「愚痴と問題提起は、問題を構造化するか否かで変わる」ということにハッとしました。
優れたリーダーは、優れた問題発見者であると同時に、優れた問題解決者であると教わり、改めて自分が優れたリーダーでないことを実感……。
「あるべき姿」を描き、「現状を把握」すると、そのギャップが見えてくる。「ギャップ」=「問題」。問題が明確になれば、解決策の制度は大幅に向上するそうです。
その後、自分の問題を捉え直すというワークがありました。
STEP1.自分の「あるべき姿」を描き
STEP2.現状を正しく認識・分析し
STEP3.ギャップを解明し、原因を考える
STEP4.原因から課題の解決策を考える
ワークに向き合っているうちに、自分の団体の問題が浮き彫りになり、そして解決策が見えてきてメンバーにLINEしたくてうずうずして、その後の講義がしばらく頭に入らなくなったほどでした。
数年前、自分にやりたいことがない時にビジネス書を読んでみたことがありましたが、どこか他人ごとに感じて頭に入りませんでした。今は実際に取り組んでいることがあることで、吸収力も違ってくることを実感しました。そして現状に甘んじず、ちゃんと勉強しなければいけないなということも……。勉強すれば、きっとソロバンもできるようになるはずです。きっと。
教室では互いのワークでの発表に対して、アドバイスや議論が白熱するなど、藤岡さんを中心に、年齢や肩書きを越えた一体感がありました。白熱教室です。
中でも「みんなの夢アワード7」のファイナリストに勝ち残った管理栄養士の麻植有希子(おえゆきこ)さんの発表では、それぞれの食や健康、ダイエットに対する意識も見えてきて面白い時間となりました。
SMCのソーシャルマネジメント・アントレプレナー養成講座0期は、2016年10月から2017年2月にかけて全五回行われ、修了式は2017年2月20日(月)に行われる「みんなの夢AWARD7」舞浜アンフィシアターにて行われるそうです。
来年度からは大学や企業、自治体にもSMCのプログラムが導入されるとのことで、より多くのソーシャルイノベーターが生まれていくのだろうなと思いました。大きな刺激と学びをいただき、人生が変わるかもしれない濃い体験入学ができました。
(※1)ユヌス・ソーシャル・ビジネスの7原則
1.経営目的は、利益の最大化ではなく、人々や社会を脅かす貧国、教育、健康、情報アクセス、環境といった問題を解決する事である。
2.財務的・経済的な持続可能性を実現する。
3.投資家は投資額のみを回収できる。投資の元本を超える配当は行われない。
4.投資額を返済して残る利益は、会社の拡大や改善のために保留される。
5.環境に配慮する。
6.従業員に市場賃金と標準以上の労働条件を提供する。
7.楽しみながら取り組むこと。
(取材日:2016年11月27日/教来石小織)
ライター紹介:教来石小織(きょうらいせき・さおり)
途上国の子どもに映画を届けるWorld Theater Project(NPO法人CATiC)代表。日本大学芸術学部映画学科卒業後、ペンネームで書いていたブログが大手出版社の目に留まり初版1万部で発売。派遣の事務員を経てPR系会社の専属ライターとして、企業の社長、広報担当、メディアの記者、編集者、ディレクターなどにインタビューを行う。2015年に行われた「みんなの夢AWARD5」グランプリ。2016年、団体の軌跡を綴った著書『ゆめの はいたつにん』(センジュ出版)出版。