ファイナリストインタビュー特集VOL.2:岡田 紗季さん
2019年2月25日に舞浜アンフィシアターで開催される「みんなの夢アワード9」。
300人を超える応募者の中から、3次選考を勝ち抜き見事ファイナリストに選ばれた7名はどんな方たちなのでしょうか。
みんなの夢をかなえる会の事務局では、「なぜその事業を行うのか」、
夢の背景にあるファイナリスト達のストーリーを取材しました。
第2回目はAEDに画期的なアイディアをもたらした岡田紗季さんをご紹介します。
岡田 紗季
「誰もが命を救える社会へ」
祖父の心筋梗塞がきっかけに
昔から行動力があった、わけではないと言う。
和歌山に暮らす、ごく普通の女子高校生だった岡田紗季さんが、社会を巻き込む行動を起こしたのは、同居していた母方の祖父が心筋梗塞で倒れたのがきっかけだった。
幼い頃から自分を可愛がってくれて、夜は一緒に眠っていた祖父。大好きな祖父が倒れたのに、何もできない自分が悔しかった。泣きながら無事を祈ることしかできなかった。
幸いにも祖父は一命を取りとめた。だがこのときから紗季さんは、「今の自分に何ができるか」「次にいつ誰に何が起きるかわからない事態にどう備えるべきか」を考えるようになったという。ふと、祖父が倒れたときに居合わせた祖母が、AEDを使いたくてもどこにあるかわからなかったと言ったことを思いだした。
AEDの使用率、4.7%
AED(Automated External Defibrillators)は、心臓が痙攣を起こして血液を送り出すポンプとしての役割を果たせなくなる心室細動を起こしている状態のときに、心臓に電気ショックを与えて正常な状態に戻す医療機器だ。2004年7月から、医療従事者ではない一般市民でも使用できるようになった。操作方法を音声でガイドしてくれるので、簡単に使用することができる。病院や診療所、救急車、空港、駅、スポーツクラブ、学校、公共施設など、人が多く集まる場所を中心に設置されている。日本では68万台も設置されている。
だが目の前で人が倒れたときに、一番近いAEDがどこにあるのかを知っている一般市民は多くはない。日々の暮らしのなかで、AEDの場所を意識したことがある人も少ないだろう。肝心なときにどこにあるのかわからなければ意味がない。咄嗟のときにAEDの存在を思いつく人も少ない。いざ思いついたとして、AEDを取りに往復している時間に命を落とすかもしれない。AEDの使用率を調べたら、4.7%だった。
AEDの使用率を上げることができれば、「目の前にある命を誰もが救える社会」「いつ、どこで、誰が心停止者に遭遇しても誰もがAEDで人を救える社会」を実現できるのではないか。
地域を巻き込む活動に
紗季さんは動きだした。高校二年の夏だった。本来なら受験に向けて動きだす時期だ。勉強を差し置いてAEDの活動に身を入れ始めた紗季さんを見て、家族や学校は活動に反対した。
反対の声を押し切り、紗季さんは次々と行動を起こしていった。紗季さんが思いついたアイディアは画期的だった。従来のAEDにタブレットをプラスして、消防署からの遠隔操作でタブレットアラートを鳴らし、AEDの近くにいる人にAEDを手に取ってもらう。そしてAEDタブレットの地図で現場へと誘導し、心停止者の元へAEDを届けてもらう。このシステムに、紗季さんは、地図を元に救助現場へやってくるAED、つまり誘導(induce)の意味を込めて、「AEDi」と名付けた。
一人の高校生のアイディアが、行政と企業を動かした。地元の消防本部と市役所、関西を中心に店舗展開を行っているスーパーマーケットの協力を得て効果検証を行った。従来はAED到着までの時間は9分だったが、AEDiでは約2分半でAEDが到着した。
評価される活動、増えていく仲間
紗季さんのAEDの活動はただの課外活動ではなく、人生をかけている活動なのだと紗季さんの姿勢を見ていて気づいた家族や学校も、いつしか応援してくれるようになっていた。
そんな中、全国の高校生が競い合う学びの祭典「全国高校生 MY PROJECT AWARD 2016」で文部科学大臣賞を取ったときの喜びは今でも忘れられない。団体で出ている高校生が多い中で、不安のなか、一人でプレゼンテ―ションに臨んだ。そして優勝。自分の活動が評価された。多くの人を巻き込みつつも、どこか手探りで進めてきた活動に、大きな自信をもらった。紗季さんはその後、数々のアイディアコンテストで次々と優勝していった。
活動を続ける中で、AO入試の存在を知った。AEDiでの活動の功績が認められ、慶應義塾大学に合格。大学内外で紗季さんの想いに共感する仲間達と次々と出会い、活動を広げている。
その後元気に暮らしている祖父は、紗季さんの活躍が載った記事を丁寧に切り取りスクラップしているという。
2019年2月25日に迫った夢アワードについて聞いてみた。「ファイナリストの方たちは本当に凄い方たち。出会いがとても大きく重たい。同じ舞台で戦えることが嬉しい」と語った。「優勝する自信は?」の質問には、「優勝しか喜べないので、優勝を目指し努力していきたい」と、可愛らしい声で力強く答えた。
(取材:2019年1月 /ライター:教来石沙織)