ファイナリストインタビュー特集 VOL.4:田澤 麻里香さん
2019年2月25日に舞浜アンフィシアターで開催される「みんなの夢アワード9」。
500人を超える応募者の中から、3次選考を勝ち抜き見事ファイナリストに選ばれた7名はどんな方たちなのでしょうか。
みんなの夢をかなえる会の事務局では、「なぜその事業を行うのか」、
夢の背景にあるファイナリスト達のストーリーを取材しました。
特集第4回目は、「みんなの夢アワードin小諸」でグランプリに選ばれた田澤麻里香さんをご紹介します。
田澤 麻里香
「蔵人体験」ができる滞在モデルを作る。新しい観光素材として世界中のSAKEファンを魅了する。
海外に憧れて、45カ国旅をした
大人になってから故郷の良さに気づく人は多いのではないだろうか。長野県小諸市出身の田澤麻里香さんもその一人だ。故郷を愛し、そして100年後も子どもたちが誇りを持てる故郷を作ろうと奮闘している。
麻里香さんが生まれ育ったのは、人口100人あまりの自動販売機すらない山あいの集落だという。子どもの頃の麻里香さんは、「早くこの何もない山奥から出たい」という気持ちが強かった。母親が英語教師で、家に外国人が遊びに来ていたこともあって海外への憧れも大きかったそうだ。
大学生になると、ユーレイルパスを使って二カ月間ヨーロッパをひとり旅した。特に感動したのはフランスの田舎だった。パリから何100キロも離れた場所にある人口100人ほどの小さな村々がとても美しく、不便であってもそこで暮らす人々が自地域に誇りを持って暮らしているのが印象的だった。
そして旅行会社のクラブツーリズムに就職。フランスの美しい田舎をめぐるツアーを積極的に企画した。これまでに行った国の数は、仕事とプライベートを合わせて45カ国を超える。
故郷で地域おこし協力隊に
結婚して子どもが生まれ、主婦として埼玉県で暮らしていた麻里香さん。
社会復帰を考えていたとき、故郷である小諸市の地域おこし協力隊の募集を見つけた。見ると「旅行会社経験者求む」と書いてある。旅行会社に勤めていたとき、いつかお客様を受け入れる側の種まきをする部分からやってみたいと思っていた。麻里香さんの思いと経験は小諸市が求めていた人物像とピタリと一致した。麻里香さんは地域おこし協力隊として、小諸にUターンすることになった。
再び小諸で暮らした麻里香さんは、改めて故郷の温かさに気づいた。結婚し子どもを産むと、四季が感じられる静けさの中で生活できることに魅力を感じるようになった。都会では、良くも悪くも人とのつながりがない。ここでは近所のお婆ちゃんが手作りの漬物やおこわを持ってきてくれたりと、近隣の人と何世代も前からつながっている。
佐久地域の宝物を発見
地域おこし協力隊として小諸に住んだときに初めて、地元に古い酒蔵があることを知った。しかも小諸を含む長野県佐久地方一帯にある13の酒蔵が、「SAKU13」として結束し、そのブランドを世界に広めようと活動していたのだ。
麻里香さんは20代のころ、ワイン好きが高じてワイン輸入業者に転職し、ワインエキスパートの試験を受けたことがある。試験範囲には日本酒の項目もあり、その時に日本酒が世界一丁寧に作られるお酒であり、海外の人たちが、米から高いアルコール度数と馥郁とした香りの酒を生み出せることに感銘を受けていることを知った。海外では日本酒ブームが起きている。
麻里香さんは観光地域づくりの先進地域から学んだことを思い出していた。「来てもらうだけではダメ。いかに長く滞在してもらって、地域のファンになってもらって、リピーターになってもらえるか」「普段地元の人が何気なく見ているものが、実は外の人から見ると宝物だったりする。そういうものを見つけて発信しなさい」――
麻里香さんは、訪日外国人を含む観光客が酒蔵に泊まって蔵人体験ができる「KURABITO STAY」を思いついた。佐久地域を、世界中の酒ファンが集まる場所にするのだ。
夢アワードin小諸で優勝して
2018年9月29日に開催された夢アワードin小諸で、ファイナリストに選ばれた麻里香さんはKURABITO STAYの夢を語った。そして優勝。意外だったのが、一緒にやりたいと声をかけてくれたのが隣の市にある古い蔵元だったことだ。何市であるか関係なく、行政の枠に囚われず、お互いが協力して面白いものを作っていこうとしてくれていることに感動した。夢の手応えを感じた。
次の夢アワードの舞台は全国だ。日本全国には1300の酒蔵がある。1300ヵ所で同時多発的に面白い地域づくりができる可能性があるのだ。日本酒は日本が誇るべき文化。麻里香さんの夢は、失われつつある日本のアイデンティティを守っていくに違いない。
(取材:2019年1月 /ライター:教来石沙織)