ファイナリストインタビュー特集 VOL.7:坪井 俊輔さん
2019年2月25日に舞浜アンフィシアターで開催される「みんなの夢アワード9」。
500人を超える応募者の中から、3次選考を勝ち抜き見事ファイナリストに選ばれた7名はどんな方たちなのでしょうか。
みんなの夢をかなえる会の事務局では、「なぜその事業を行うのか」、
夢の背景にあるファイナリスト達のストーリーを取材しました。
第7回目は株式会社うちゅう、SAgri株式会社の創設者でありCEOの坪井俊輔さんをご紹介します。
坪井 俊輔
「世界中で広がる貧困問題の解決及び食糧問題の解決をテクノロジーを通じて解決する。」
宇宙に魅了された子ども時代
株式会社うちゅう創設者の坪井俊輔さんが宇宙に憧れたきっかけは、ディズニーランドのトゥモローランドだった。スター・ツアーズやスペース・マウンテンなどのアトラクションに乗るうちに、いつしか「宇宙飛行士になりたい」と思うようになっていた。
中学二年生のときに訪れた日本未来科学館で、宇宙飛行士の毛利衛氏に出会う。毛利さんが語る「宇宙エレベーター」の話を夢中で聞いた。元はSFファンの間で古くから知られる夢物語だったが、宇宙エレベーターの条件に応えられる素材が見つかったことで、多様で具体的な建造計画が提案されるようになったのだ。もしも実現したら、訓練を受けた宇宙飛行士でなくても、高齢者や体が不自由な人でも宇宙を訪れる機会を得られるかもしれない。
宇宙エレベーターを作りたい、宇宙の研究をしたいと、坪井さんは宇宙の研究にハマっていった。
子ども達が「宇宙」を勉強できる場を
けれども中学三年、高校と進んでいくうちに、宇宙の知識だけは溜まるけれどもそれをどうしたら良いかわからない日々が続いた。当時高校生が宇宙について学べる学校や、宇宙の知識を活かせる場などなかった。具体的に宇宙の研究をしている姿を思い浮かべることができなくなった。
高校二年生の冬、坪井さんは宇宙の夢を諦める。
夢のないまま大学に進学し、イギリスに留学。出会った友人達は、夢を持ち輝いていた。「シュンは何がしたいの?」と聞かれるが答えられない自分がいた。悲しかった。そして、やはり自分は宇宙の研究がしたいのだと火が付いた。
帰国後、大学の中に火星探査機のタイヤの研究を行っている研究室があることを知る。そこから坪井さんの宇宙研究は本格化していった。
大抵の人にとって、宇宙の夢は壮大過ぎて、子どもの時に夢見ても、夢物語で終わってしまう。
坪井さんは2016年に株式会社うちゅうを設立し、小・中・高校生を対象に宇宙教育を行う事業を立ち上げた。小学生が夢を持っているときから、夢を持ち続けられるような場所をつくろう。ロケットやロボット作りを通じて宇宙の魅力を子ども達に伝えていくのだ。
生徒が一組しかいないところからのスタートだったが、徐々に賛同者や協力者を得て事業は大きくなっていった。ロボット教室や人工衛星開発のプロジェクトにたくさんの子ども達が集まるようになった。環境的に教室を辞めざるを得なくなった子どもが、親の前で「絶対に行きたい」と号泣しながら説得する姿を見て、坪井さんはますます使命感を持ったという。
途上国で見た現実
2016年夏に、坪井さんはルワンダとカンボジアを訪れる。ロボットやドローン、宇宙を切り口にしたプログラミング教育と、アントレプレナー教育を行うのが目的だった。
坪井さんの中には「宇宙」の他に、「教育」というテーマがある。中高時代、宇宙にのめり込み過ぎていた坪井さんは、周りから理解されず一人で過ごすことが多かった。
大学生になってから、宇宙の研究をする傍らで、中高生達と関わるボランティアを始めた。そこには昔の自分のように、一人ぼっちで自分に自信が持てない子ども達がいた。「この子たちを助けたい」という想いで立ちあげたのが株式会社うちゅうだが、日本だけでなく、途上国や世界中の子ども達が自己実現できる社会をつくりたいと考えていた。
坪井さんがルワンダで出会った子ども達の夢に対する姿勢は、日本の子ども達と違っていた。夢は持っているけれど、その夢が叶うことはないと自覚していたのだ。彼らが中学、高校に進学できることはない。彼らは一家の大切な労働力だった。
途上国の子ども達の生活を改善するのは教育だと思っていたが、それよりももっと根本的なことを変えなくてはいけないのではないか。
子どもたちの親の多くは農家だった。一日150円以下で生活している家庭が7割を超えていた。ならば農家に対して自分ができることはないのか。
宇宙から、途上国を救おう
途上国で直面した問題について考え続けていたある日、子どもの時から好きだった宇宙がそれを解決できるのではと思いついた。
途上国の農家は信頼がないから良い条件でお金を借りることができない。たくさんの農作物を作っても言い値で買われてしまう。それが悪循環となり、貧困から抜け出すことができず子ども達も教育を受けられない。
これまでも農業分野にドローンやIoTが登場したが、途上国ではお金がないから導入できない。そこで坪井さんが考えたのは、政府衛生データを用いた途上国農業への宇宙データサービスだ。
現在、経済産業省宇宙産業室は、人工衛星の観測データを誰もが無料でできるようオープン化を進めている。その衛生データに地上での農作業のデータを補足すると、どの畑でどんな質の作物が収穫できるかの予測が可能になる。坪井さんは農地管理アプリ「SAgri(サグリ)」を開発し、まずは開発拠点となる丹波市の農家にその日の作業を記録してもらうことにした。そのビックデータを、途上国の農業に生かしていくのだ。
坪井さんは株式会社うちゅうの中の一部門だった「SAgri」を切り離し、2018年6月にSAgri株式会社を設立。インド、日本、カンボジア、ベトナムと各国を駆け回りながら、現在SAgriの開発に注力中だ。
今回の夢アワードのファイナリストは競合揃い。優勝する自信はないが、自身のビジョンが人々にどう刺さるのかを見てみたいと坪井さんはいう。
宇宙×農業×途上国。一見何の繋がりもない三つが坪井さんの情熱により合わさったとき、多くの子ども達の未来が切り拓かれるのかもしれない。
(取材:2019年1月 /ライター:教来石沙織)